青森県感染対策協議会へ寄せられる質問や相談、回答を掲載しております。
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感染対策について
- Q1:
- 麻疹・水痘・風疹など病院で広がると怖いウイルス感染症に対して職員の抗体価検査を予定しています。追加予防接種の目安の抗体価の基準はありますか?
- A:
- 環境感染学会から発表されたものがあります。
「院内感染対策としてのワクチンガイドライン」に記載があり、同学会のウェブサイトからダウンロードできます( 資料ダウンロード)。「環境感染学会」、「予防接種」のキーワードで簡単に検索できますので参考にしてください。下にIgG抗体価と判定内容を表にします。但し、注意点があります。環境感染学会のガイドラインはこの表のみではなく、詳細なフローチャートが附記されており、感染既往や過去の予防接種回数によって追加摂取するか否かを決定していく形式となっています。
ウイルス疾患への感受性をIgG抗体価のみで論ずることは正確ではありません。環境感染学会のガイドラインはあくまで医療従事者を対象にしており、医療施設における医療従事者を介した感染拡大防止の観点から、要求する抗体価が高く設定されています。また、測定方法は記載されているものの、測定キットまでは指定されておらず、試薬メーカーによるキット間格差には配慮されていません。
このようにいくつかの問題点は指摘されていますが、我が国の学会でこの医療従事者の獲得すべきウイルス抗体価を示した予防接種ガイドラインとなっておりますので、この基準を採用する施設が増えています。
今後、この基準の採用を契機に全国の施設からのデータの蓄積が進むことが期待されます。
疾患 | 測定方法 | 追加予防接種必要 | 追加接種不要 | |
---|---|---|---|---|
麻疹 | NT | 4倍未満 | 4倍 | 8倍以上 |
PA | 16倍未満 | 16-128倍 | 256倍以上 | |
EIA | 2.0未満 | 2.0~15.9 | 16以上 | |
風疹 | HI | 8倍未満 | 8~16倍 | 32倍以上 |
EIA | 2.0未満 | 2.0~7.9 | 8.0以上 | |
水痘 | IAHA | 2倍未満 | 2倍、4倍 | 8倍以上 |
EIA | 2.0未満 | 2.0~3.9 | 4.0以上 | |
流行性耳下腺炎 | EIA | 2.0未満 | 2.0~3.9 | 4.0以上 |
- Q2:
- 医師の手洗いの遵守率が悪いです。改善するにはどうしたらよいでしょうか?
- A:
- 忍耐強く何度も何度も研修や実習を行うことです。
近道はありません。子供に外から帰ったら手洗いしてからおやつを食べるように母親は毎日言っているではありませんか。何度言われても食べるのが先になる子供はいるのです。こんな子供も毎日言われているとそれなりに(完璧ではなくとも)手洗いの習慣がついていくものです。根気よく続けましょう。
それから、医師の立場に立って手洗いしやすい環境を整えるような配慮も必要です。以前、同じ悩みをもつ職場を訪問した際に、看護師の動線に合わせて手指衛生剤が配置してあり、医師の動線には配置されていないことがありました。若いスタッフは比較的早く習慣がつきます。
若い医師に重点的にトレーニングすると、少し時間はかかりますが、職場全体に習慣が根付きます。手指衛生剤の消費量や現場観察による手指衛生実施率のモニタリングなどを通じて、改善していく様子をフィードバックするなども良いと思います。根気と継続に勝るものはありません。
- Q3:
- HBV,HCV陽性の患者の手術時でもゴーグルやフェイスシールドを付けずに手術する医師がいます。そのチームで手術に助手で入る医師もだれもゴーグルを着けません。
これらの医師にHBVやHCVが眼から感染する場合があると示して説得したいのですが、何か事例や統計はないでしょうか。
- A:
- 例数は多くないですが、眼球結膜に飛散した血液で感染した事例が報告されています。
針刺しによる感染率はHIV:0.3%、HCV:3%、HBV:30%と大まかに覚えますが、報告によって差があります。粘膜曝露による感染率は針刺しによるものより低いとされていますが、実際数字を出している報告は探した範囲では、2003年のCDCからのもので。HIVが0.1%、国立国際医療研究センター病院 エイズ治療・研究開発センターウェブサイトでは0.09%(0.06~0.5%)という数字が紹介されています。
感染源血液陽性項目 | HIV | HCV | HBV |
---|---|---|---|
針刺しによる感染率 | 0.3% | 3-10% | 6-30% |
皮膚粘膜曝露による感染率 | 0.1% |
※CDC 2003
実際に目からのHCV感染事例として、2002年に大阪市内の病院で20代女性外科医が手術中のHCV陽性血液を浴びて感染した事例が報道されています。この事例では翌年この女性から生まれたお子さんもHCVに感染しておられたとのことです。また、文献では手術場の看護師の感染例が報告されています。
(Salih H, et al. Transmission of hepatitis C by blood splash into Conjunctiva in a nurse, AJIC clinical study, 2003;31:502-504.)